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column トピアコラム

スケッチの想い出

2025年2月27日

期せずして個展への案内状が届いた。

 

前回の下関市立美術館での個展で、展覧会はこれが最後とおっしゃられてから2年、年賀状仕舞もされて互いに連絡も途絶えるなか、元気であられることをまずは嬉しく思った。

 

案内状をくださったのはY氏。13年前にトピアを退職された設計部員である。

 

自分がこの会社に入って最初の社内検査で見たのがY氏の設計による住宅であったが、端正な現代数寄屋のたたずまいに感銘を受けるとともに、えらい会社に来たものだとたじろいだ覚えがある。ただこの時のY氏はトピアの設計部員ではなく、個人事務所の建築士としてこの住宅の設計をトピアから委託された立場にあった。

 

そんなY氏が60歳を過ぎて個人事務所を閉鎖し、トピアに入社することとなったが、その設計に対するあまりにまっすぐな姿勢が時として軋轢を生むこともあった。

 

ただ自分は「大橋さん、そんな設計じゃぁだめですよ」とたしなめられながらも、Y氏の設計に対する姿勢や発想、そこから立ち上がる良質な空間、凛とした佇まいの建築にいつも感嘆させられ、こんな設計ができればいいなあと常々思っていたし、今でも「Y氏ならどう考えるか…」と図面をながめながらふと思うことがある。

 

 

そんな中でも設計屋の職能として特に秀でていたものの一つが、頭のなかのものを手描きでアウトプットする能力で、これらは白黒のスケッチであったり色鉛筆や水彩で色づけけされた図面やパースで表現された。

 

今はCADソフトの普及で精緻な線画の図面や精巧なCGパースが比較的短時間でできてしまうのだが、それらは完成度が高いがゆえに付け入る隙がなく、建築に至るまでの想像がストップしてしまう感がある。それに対してフリーハンドで描き流されたスケッチは、揺らぎのある線のはざまに、いろいろな想像をはさみこむ余地があり、ゆえに見る人の気持ちを高揚させる不思議な力があった。

 

 

そんなY氏が製図用ペンを絵筆に持ち替えて描く油絵はやはり見ていて楽しい。80歳を超えたであろう今でも奥様を伴ってスケッチ旅行に出かけられているとのことだが、画題には九州の山々や四国の風景がみられる。

 

本人は以前にもまして耳がとおくなっていたが、個展に同行されていた奥様に「この絵いいですね」と言えば、それを何とか伝え聞いて飛んできたかと思えば、「大橋さん、この絵あげるよ」と満面の笑みを浮かべておっしゃられる。素敵な絵だがさすがに頂くわけにもいかず、かといって言い出したら聞かないこの方の性格は今も変わらずで、ならば額代だけでもと少額を支払い1枚の絵を譲っていただいた。

 

 

愛媛県佐田岬灯台の夜景を描いた6号サイズの油絵。月夜の灯台と海に浮かぶ黄色の漁火が見ていて心落ち着かせる。激しい気性の一面もあったが、この人の根っこのやさしさが感じられるY氏らしい1枚だ。

 

Yさんいつまでもお元気で。

 

設計部 大橋

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