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column トピアコラム

『印象に残る展覧会』

2020年9月26日

もう4ヶ月前のことではありますが、山口県立美術館での印象に残る展覧会について思い出しながら書きます。

 

『ハマスホイとデンマーク絵画』展。東京都美術館と山口県立美術館の2会場で開催されましたが、コロナウィルスの感染が日増しに拡大する中、東京では開催期間を1ヶ月残して閉幕となり、山口でも開催自体が危ぶまれた絵画展です。

 

ヴィルヘルム・ハマスホイという画家についても、デンマーク絵画に関しても、まるで知識はありませんでしたが、幾何学的な画面構成と、そこにふと立ち現れて柔らかなリズムを奏でるような黒衣の女性の後ろ姿と共に、『何もない音がする』という不思議なキャッチコピーが添えられたポスターに甚く感動を覚え、半ばあきらめながらも待ち望んでいた展覧会でもありました。

 

4月7日のオープンが見合わされ、所定会期も2週間を残すのみとなった526日、『ハマスホイとデンマーク絵画』展はようやく開幕の日を迎えたのですが、感染拡大防止を考慮し、入館者数や鑑賞時間などをしっかり管理できる態勢を整えての、ぎりぎりのスタートだったように思います

 

 

開幕当日はあいにくの雨。にもかかわらず8時前には本展を楽しみにしていた人達が美術館前に集まり始め、整理券配布開始の830分には初夏のパークロードに長い列が出来ました。

 

整理券を受け取った来場者は屋外に設営されたテントで問診票を記入、その後整理券順に15名ごとのグループに分けらました。通常ならば自由に行き来できるはずのアプローチ階段前にも入場制限のための柵が設けられ、グループごとに約15分単位で検温とチケットの購入を済ませていきます。その一方で、館内では先行する二つのグループ計30名がロビーともぎり前に待機しています。

 

展覧会はテーマごとに

① 19世紀デンマーク絵画(41作品)

② 室内画と初期ハマスホイ作品(20作品)

③ ハマスホイ・ルーム(26作品)

3つの展示室に分けられていましたが、各展示室は①:30分⇒②:20分⇒③:30分と滞在時間が制限されるとともに、そのグループの鑑賞時間の終了が近づくとプラカードを持ったスタッフの誘導により次の展示室に進むという移動制限が布かれていました。

 

 

けして難しいことなど考えず、特に構えぬまま、好きや嫌いくらいの軽い気持ちで、それでいて二度と見ることも叶わないであろう絵画や彫刻に囲まれて自由な時間を過ごすことのできる贅沢な場所。

 

自分にとっての美術館はきっとそんな空間なのですが、本展のような移動と時間の制限を受ける展覧会でもストレスを感じることなく、しっかり楽しむためのコツについては、入室前の待機時間にスタッフの方から次のようなレクチャーがありました。

 

その一 入場口の挨拶文は割愛する

⇒ 作品の鑑賞に時間を割く

 

その二 まずは展示室の最後尾にむかう

⇒ ルートに沿って一から鑑賞すると、その展示室の作品構成とヴォリュームが把握できていないため、時間内の鑑賞が困難になる。展示室間の自由な移動は禁止だが、一つの展示室での移動には制限が無いため、まずは最後尾にむかい展示の全体像を把握する。

 

その三 逆順でみる ルートにとらわれず空いているところから自由にみる

⇒ 展示室の作品構成が把握出来たら最後尾から逆順でみる。最後尾にむかう途中で、きっとお気に入りの作品の展示場所もわかるはずだから、みたい作品に的を絞ってしっかり時間をかけて鑑賞することができる。それと共に空いている作品から自由にみていくことで密集状態が避けられる。

 

 

2008年、国立西洋美術館で開催された国内初の大規模回顧展では、約2か月の会期中に延べ18万人もの鑑賞者を魅了したハマスホイの絵画作品。コロナ禍での制限があるとはいえ、このような美術館側からのアドバイスにより、とてもゆったりと鑑賞できた感があります。そして何よりも展覧会の構成とそこに展示された作品が素晴らしかったことは言うまでもありません。

 

デンマーク絵画の系譜と、そこから生まれたスケーエン派画家による輝くような空気感のある作品群。それとは対象的に限られた色彩のまるでモノクロームの写真を見ているようなハマスホイの作品。そこに描かれた室内画や風景画は、写実的なのにあるべきものが無かったり、幾何学的なのに妙に不安定な画面構成だったり、近景と遠景、ディテールと全体の密度のアンバランス感だったり、普通であれば不快なはずの物事が画面の中であまりにも静かに、あまりにもおだやかに成立してしまっていることの心地よい不思議さがある展覧会でした。

この展覧会から4ヶ月が経ちましたが、いまだにコロナ禍が収束する兆しは見えません。かといって感染拡大当初ほどには生活の停滞を甘受しているわけにもいかず、疾病を正しく恐れながら少しずつ社会全体が活気を取り戻してきているようにも思います。

 

県立美術館における今年度の大規模特別展は全て中止となってしまいましたが、またいつか、気軽に美術作品に触れあえる日常が戻ってくることを願っています。

 

追伸. トピアもコロナ対策のうえ、随時予約制見学会を実施しています。是非の御来場を。

設計部 大橋

 

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